研究概要

杉山特別研究室を田辺三菱製薬㈱、杏林製薬㈱、㈱島津製作所など26社の資金により開設

-薬物動態、薬効、毒性の予測に基づく統合的創薬支援システムの確立を目指して-

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、田辺三菱製薬株式会社、杏林製薬株式会社、株式会社島津製作所など26社からの資金拠出を受け、杉山 雄一(すぎやま ゆういち)※1東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室教授を招聘(しょうへい)し、4月1日から社会知創成事業イノベーション推進センター(土肥義治センター長)内に杉山特別研究室を開設します。
杉山特別研究室は、薬物動態、薬効、毒性について、in vitro(試験管内)からin vivo(生体内)の予測、薬物間相互作用、個人間変動や病態時変動の予測などを可能にする統合的な創薬支援システムの確立を目指します。これは、傑出した研究者を招き外部資金によって研究を推進する「特別研究室プログラム※2」を活用したものです。
具体的には、モデリングとシミュレーションを駆使した手法により、薬物間の相互作用について、相互作用薬と被相互作用薬の両方の経時変化を考慮に入れて予測するシステムの開発を行います。また、病態の程度、性差、年齢差、人種差などに関する仮想的なヒトのデータを発生させ、ヒトを使った臨床試験を行うことなく、ある特定の集団の薬物動態や薬効発現特性の個人間変動を評価する予測システムの開発も目指します。また、医薬品候補化合物の体内動態を安全性の保障される投与量で調べることのできるマイクロドーズ臨床試験を実施すべきかどうか、PET試験を組み入れるべきプロジェクトかどうかを判断する基準作りにも役立てていきます。
これらのシステム開発により、臨床試験にまで到達した数多くの医薬品候補化合物のほとんどが開発中止となっている現状を改善するとともに、臨床試験後の開発もスムーズに実施することができるようになるため、効率的な医薬品開発が実現すると期待できます。参加企業からの具体的課題に対しても積極的に取り組みます。
理研は、わが国で唯一の自然科学の総合研究所として、物理学、工学、化学、生物学、医科学など広い分野で研究活動を行っています。日本の生命科学の分野では、分子イメージング研究ネットワークの中核拠点である「分子イメージング科学研究センター」や、ライフサイエンス研究支援を推進する「オミックス基盤研究領域」があります。杉山特別研究室では、これらのセンターと協力し、日本発の新薬創製を加速させる統合的創薬支援システムの構築を目指します。

 

1.経緯と取り組み
創薬の初期段階では非常に多くの医薬品候補化合物が合成されます。これらの候補化合物に対しては、薬物動態に関わる膜透過性や代謝酵素による代謝速度、薬効に関わるレセプターとの結合親和性などをin vitro実験系で検討します。この実験で得られる各種パラメータを比較することで、候補化合物の絞り込みを行い、臨床試験に導入する薬物を決定します。しかし、in vitro実験系や動物実験から期待された薬効が臨床試験では再現されず、医薬品候補化合物のうち、ほとんどが市場に出る前に脱落することも事実です。臨床試験は非常に多額の費用を必要とします。このため、臨床試験までの段階で、目的とする薬効を示す薬物をいかに正確に選定するかが、効率的な創薬のカギになります。理研は、創薬の効率化が図れる統合的な支援システム構築を目的に、傑出した研究者を招き外部資金によって研究を推進する特別研究室プログラムを活用し、杉山特別研究室を開設することとしました。
杉山特別研究室では、創薬の初期段階で候補化合物を合理的に選択する新しい方法論を確立し、統合的創薬支援システムの構築につなげていきます。具体的には、多様なin vitroスクリーニングから得られたパラメータを統合的に組み入れた数理モデルを構築し、薬物動態や薬効の経時変化を定量的にシミュレーションします。これにより、臨床試験に入る前に、ヒトに投与したときの各化合物の医薬品としての有効性を正確に予測します。また非侵襲的に臓器内の薬物を定量的に可視化することのできるPET試験で薬の臓器移行・分布の経時解析や臨床研究の結果と、数理モデルによる計算結果を比較して数理モデルの最適化を図ります。これにより、薬物間相互作用を避けることのできる医薬品、個人間変動や病態による影響を受けにくい医薬品、治療域の広い医薬品の開発につなげます。また、医薬品候補化合物の体内動態を安全性の保障される投与量で調べることのできるマイクロドーズ臨床試験や、ヒトで期待した機構により薬効がでるかどうかを判定することを目的とする早期探索的臨床試験を行う必要のあるプロジェクトかどうか、PET試験を組み入れるべきプロジェクトかどうかを判断する基準作りにも役立てていきます。